2016年11月4日金曜日

「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス―さざめく亡霊たち」 【同時開催】「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」 東京都庭園美術館

今回は目黒の東京都庭園美術館で12月25日(日)まで開催中の「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス―さざめく亡霊たち」展と【同時開催】「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」展をご紹介します。

◆クリスチャン・ボルタンスキー
1944年、パリ生まれ。独学で制作を始め、1960年代後半より映像作品やインスタレーションを発表。1972年以降、5年に1度開催されるドクメンタ(ドイツ、カッセル)やヴェニス・ビエンナーレなど現代美術国際展に度々招待され、国際的に注目されるようになります。今日まで一貫して、匿名の個人/集団の生(存在)と死(消滅)、そして記憶をテーマに世界各国で作品を発表しています。

今回の展覧会は本館全体で、建物公開展の「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」が行われていて、その中で、ボルタンスキーの作品も展示されています。さらに新館では彼の作品のみが展示されています。

まず、新館の作品からご紹介しましょう。
《帰郷》 2016年 《眼差し》 2013年
黄金のエマージェンシー・ブランケットが覆っているものは大量の古着です。
持ち主不明の大量の衣服の山をエマージェンシー・ブランケットで覆う行為に、一人ひとりの生死を残酷なまでに等しく見つめるボルタンスキーの一貫した眼差しが感じられます。
手前にある目元のみ大きく拡大プリントされたヴェールは《眼差し》という別の作品です。
《眼差し》 2013年
目元のみ拡大プリントされたヴェールが幾重にも風に揺らめき、鑑賞者を奥へ奥へと誘い込みます。
引き伸ばされた写真にはもはや元の証明写真の跡形はなく、無数の匿名の眼差しが亡霊のように私たちを見つめます。
《アニミタス》 2015年
暗い展示室に入ると、足元には草が敷き詰められ、少し乾燥した草の匂いがしています。中央には大きなスクリーンがあり、動画が映し出されています。その前にはぽつんとベンチが置かれています。
《アニミタス》
スクリーンに映るのは標高2000mを越える高地にある地球上で最も乾燥した、そのために最も星座がはっきりと見える場所ともいわれるチリのアタカマ砂漠です。
風に揺れてかすかな音を鳴らす、数百の日本製の風鈴はボルタンスキー生誕時の星の配置を描いています。
《ささやきの森》 2016年
反対面のスクリーンでは今年完成したばかりの豊島(香川県)の山の中腹にあるインスタレーション《ささやきの森》が映っています。《アニミタス》と同じ構造を持つ作品です。
《ささやきの森》は、次第に大きくなる森のざわめきを頼りに小道を歩いて行くとついに出会う、木々の間でさざめく数百の風、木漏れ日、そしてその光に反射して煌く「誰か」の大切な人の名前が重なり合う、そんな情景のインスタレーションです。
《アニミタス》よりずっと穏やかな印象です。

暗い展示室の中で、大きなスクリーンに映し出される光景は、ながめていると少しずつ、時を進めていきます。
暗闇と、映像とかすかな風の音と風鈴の音色、そして足元の乾燥した草の感触。これらを五感で感じながら、そこに何を見い出して、何を聞いて、何を感じるのか、それは鑑賞者にゆだねられています。
じっくりと空間に身をおきたくなる、そんな作品です。
ぜひ、みなさんも体感しに訪れてみてください。

さて、本館では建物の公開展が開催されています。
通常、展覧会開催時には作品が展示されていて、室内の装飾等をじっくりと見ることは難しいですが、建物公開展では、カーテンが開けられ、室内に家具が配置され、居室の雰囲気が感じられるようになっています。室内の装飾もじっくりと楽しむことができます。
この展覧会の会期中は平日(月~金)に限り写真撮影が可能です。
*望遠レンズ・フラッシュ・ストロボ・三脚・レフ板・自撮り棒等のご使用はご遠慮ください。






《さざめく亡霊たち》 2016年
この本館の1、2階ではボルタンスキーの作品も展示されています。
1階では、目立たないように各所にスピーカーが配置され、どこからともなくささやきが聞こえてきます。とてもシンプルな言葉ですが、鑑賞者の心情によっては深い意味を持つようなささやきです。


《影の劇場》 1984年
2階の1室で展示されている作品です。
暗闇の奥で骸骨やコウモリのような生き物、天使などの影がダンスをくりひろげています。この光と影による幻想的なインスタレーションは西洋美術における伝統的な主題「死の舞踏」や「メメント・モリ(死を想え)」といった、“誰しもに普遍的に訪れる死”を想起させます。
《心臓音》 2005年
同じく2階のかつて書庫だった部屋ではノイズ音楽のような鼓動に合わせて電球が明滅しています。これは豊島(香川県)にある恒久展示で、世界中の人々の心臓音をサンプリングし保存している「心臓音のアーカイブ」(2010年)より提供された、「誰か」の心臓音です。

ここまでご紹介してきましたが、タイトルに「さざめく亡霊たち」とあったり、暗闇で心臓音が聞こえたり、少し恐ろしい印象を抱かれてしまったかもしれません。
しかし、「亡霊」という言葉は入っていますが、主役は今、そこに存在する鑑賞者の皆さま自身です。
ボルタンスキーが創りだしたさまざまな作品空間の中に身をおき、皆さんがそれぞれ自由な感性で体感する展示なのです。
きっとこの展覧会は、皆さまにとって特別な体験のひとつとなることでしょう。

「クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス―さざめく亡霊たち」
 【同時開催】「アール・デコの花弁 旧朝香宮邸の室内空間」
会期:2016年9月22日(木)~12月25日(日)
休館日:第2・第4水曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
11月25、26、27日の3日間は、夜間開館20:00まで(入館は19:30まで)
観覧料:一般900円 (大学生720円、中・高校生および65歳以上450円
*上記観覧料で2つの展覧会(クリスチャン・ボルタンスキー展、アール・デコの花弁展)を鑑賞できます。
会場:東京都庭園美術館
東京都庭園美術館には、ぐるっとパスで入場できます。


★ぐるっとパスは、1冊2000円で都内79の美術館・博物館などの入場券又は割引券が綴られた便利でお得なチケットブックです。
詳細はこちらの公式HPをご覧ください。