2016年9月16日金曜日

「トーマス・ルフ展」 東京国立近代美術館

竹橋の東京国立近代美術館では、11月13日(日)まで、「トーマス・ルフ展」が開催されています。

トーマス・ルフは1958年ドイツ生まれ、「ベッヒャー派」として、1990年以降、現代の写真表現をリードしてきた存在です。この展覧会では、世界が注目する写真家の、初期から初公開の最新作までを紹介しています。
「ベッヒャー派」デュッセルドルフ芸術アカデミーでベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻に学んだ写真家たちのことを総称する。他にアンドレアス・グルスキーやトーマス・シュトゥルートがいます。

ルフは初期に発表した2メートルにもなる巨大なポートレート作品で注目されました。
日本の美術館で開催される本格的な回顧展は今回が初となります。
全18シリーズ、122点の作品で構成されている見ごたえある展覧会です。
Porträts(ポートレート)」シリーズ
一見何の変哲もない証明写真のようなポートレートですが、2メートルを超えるその大きさに、私たちは作品を見ているのだということを自覚させられます。
また、ルフは繰り返し「写真に写っていることは真実とは限らない」と言います。このポートレートも撮影者によって、ポーズや表情、服の見える比率などをコントロールされたもので、自然なポートレートとは一線を画すものなのです。
《jpeg ny01》2004年 C-print, 256×188cm  ©Thomas Ruff / VG Bild-Kunst, Bonn 2016
「jpeg」シリーズ
シリーズ名のjpegとはデジタル画像の圧縮方式のひとつで、現在、全世界で使用されもっとも標準的なフォーマットの名称です。圧縮率を高めすぎるとブロックノイズが発生し、画面がモザイク状になってしまうという、この画像フォーマットの特性を用いて画像の、構造そのものを視覚化しています。
よく見るとわかるのですが、画素密度を下げ、8×8ピクセルのブロックを浮かび上がらせています。
「Substrate(基層)」シリーズ
日本の漫画やアニメから取り込んだ画像に原形がわからなくなるまでデジタル加工を繰り返し、画像から意味や情報を剥ぎとっています。
ルフはネット上に氾濫する匿名のポルノグラフィに着目し、「nudes」シリーズの制作をはじめましたが、このシリーズではさらに「イメージ」の解体へと踏み込んでいます。
「cassini(カッシーニ)」シリーズ
ルフは少年時代から一貫して宇宙への関心を抱き続けています。2008年に発表された「cassini」はNASA(アメリカ航空宇宙局)などが1997年に打ち上げた宇宙探査船cassiniが撮影した土星とその衛星の画像を素材にした作品。
ときに抽象的、幾何学的なデザインのようにも見える天体のイメージは、インターネット上で公開されている画像の色彩やトーンを操作することで生み出されたものです。
「ma.r.s.」シリーズ
「ma.r.s.」もまたNASAの探査船が撮影した画像を素材とする作品です。2006年以来火星を周回する探査船のカメラは,火星の表面のさまざまな情報を地球に送り続けています。ルフはその画像情報の角度や色彩をデジタル処理で加工することで,このはるか彼方で火星を見つづけるレンズを通じた「風景写真」の可能性を探ります。
※「ma.r.s.」シリーズの3D作品も展示されています。
「Photogram(フォトグラム)」シリーズ
このシリーズのタイトルとなっている「フォトグラム」とは、1920年代後半にモホイ=ナジ・ラースローらによって開発された写真技法のひとつで、カメラを用いず感光紙上に物体を置いて直接露光し、その影や透過する光をかたちとして定着させる技法です。ルフは2012年よりこの技法を用いた作品制作に取り組みはじめました。
ルフは、コンピューター上のヴァーチャルな「暗室」で物体の配置と彩色を自在に操作し像をつくりあげています。
「zycles」シリーズ
2008年より制作がはじめられたこのシリーズでは、ルフの関心は数学や物理学へと拡がっています。イギリスの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831-1879)の著した電磁気学の研究書の中に収められていた銅版画による電磁場の図版に触発されたルフは、さまざま数式がつくる線形を3Dプログラムによって再現し、コンピューター上の3次元空間で再構成しました。
「press++」シリーズ
最新作の「press++」シリーズは、アメリカや日本の報道機関のアーカイヴからセレクトしたプリント写真の表と裏をスキャンして、コンピュータ上で同一平面上に一体化させた作品です。
読売新聞社の協力によって制作された世界初公開の作品もあります。

主要な作品のシリーズをご紹介してきました。会場では別のシリーズやその他のたくさんの作品たちが待っています。ぜひあなた自身の視点でその作品たちと出会ってください。

インターネット上に存在する無数の画像はデータであるがゆえに、具体的なモノとしての実体がなく、誰が撮ったのか、写っているものが真実かそうでないのかもわかりません。
私たちはそういった大量の画像と、どう付き合うべきか、ルフは20年ほど前からこうした問題についての作品を作ってきました。
この問いかけも今回の展覧会の見どころのひとつです。
今回の展覧会オリジナルグッズも、個性的です。
ルフの出世作として有名な巨大なポートレート・シリーズにちなんで、「ルフサイズ」として通常より大きなサイズのグッズを制作しています。
ポスト・カードやマグネットも大きなサイズがありますし、通常A4が標準のクリアファイルもA3サイズで制作されています。
作品をモチーフにしたTシャツやビッグサイズのトートバッグもかなり魅力的です。
オリジナル商品なので品切れになる場合もあるとのことです。
興味のある方は、急いで展覧会を訪れましょう。



「トーマス・ルフ展」
会期:2016年8月30日(火)~11月13日(日)
休館日:月曜日(ただし9月19日、10月10日は開館)、9月20日(火)、10月11日(火)
開館時間:10:00~17:00(金曜日20:00まで。入館は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1,600円(大学生1,200円、高校生800円、中学生以下無料
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
特設サイト

ぐるっとパスはこの展覧会に割引券としてご利用になれます。
*一般料金の100円割引

さらに所蔵作品展「MOMATコレクション」と、ギャラリー4「奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景 ~人と景色、そのまにまに~」も企画展に入場した当日に限り観ることができます。
十分に時間をとって美術館に行くことをおすすめします。
あるいは、どちらもじっくり観たいという方は、別の日に改めて訪れてゆっくり鑑賞するのはいかがでしょうか?
所蔵作品展「MOMATコレクション」とギャラリー4はぐるっとパスで入場できます。


所蔵作品展「MOMATコレクション」
東京国立近代美術館では、国内最大規模12,500点を超える所蔵作品から約200点を展示する所蔵作品展「MOMATコレクション」を4階から2階で開催。年4回程度展示替えをし、多様な作品を通して明治以降の日本美術の流れをたどることができます。
現在の会期の見どころは「トーマス・ルフ展」に合わせて、ベルント&ヒラ・ベッヒャー、トーマス・シュトゥルート、アンドレアス・グルスキーなどドイツを中心とした写真作品の小特集です。
9室「ドイツの近代写真『新しい視覚』と『新即物主義』」展示風景
パウル・クレーの作品をはじめ、加山又造、岸田劉生、岡本太郎、草間彌生、ポール・セザンヌなど、おなじみの名作も多数展示されています。
一部の作品を除いて撮影も可能(個人的な記録に限る)です。

「奈良美智がえらぶMOMATコレクション 近代風景 ~人と景色、そのまにまに~」
2階ギャラリー4(小スペース)
アーティスト奈良美智がMOMATの所蔵作品からセレクトした約60点を展示しています。
撮影:大村昌之
会場内には奈良美智が作家、作品に寄せたコメントが紹介されていてそれを読むのも楽しい展示になっています。
所蔵作品展「MOMATコレクション」とギャラリー4は一般料金430円のところぐるっとパスのみで入場できます。
この所蔵作品展だけでもかなりの見ごたえがあります。
会期:8月16日(火)~11月13日(日)※一部展示替え有り
休館日、開館時間は「トーマス・ルフ展」(ぐるっとパスで100円割引)と同様。※土曜日は所蔵作品展、ギャラリー4のみ20:00まで開館。
無料観覧日:102()113(木・祝)文化の日、116()


★ぐるっとパスは、1冊2000円で都内79の美術館・博物館などの入場券又は割引券が綴られた便利でお得なチケットブックです。
詳細はこちらの公式HPをご覧ください。